旅にはいろいろな旅がありますね。旅に出ると日常から解放されたという実感がなんとも言えずいいものです。かつて永六輔さんが言っていましたが「自分の家の近くであっても知らないところを歩いてみる、それは旅なんです」と。 初めて接することのワクワク感、先に何があるのかわからないけれど歩いていく、そして発見や出会いがある。それは旅であり、人生そのもののようです。
私がパリに住み始めた頃、毎日いろいろなところに出かけていました。と言ってもテーマを決めて。例えば「映画」にテーマを絞っていた頃は、情報誌を買って1週間のスケジュールを立て、場所を地図で調べてから出かけました。新作から昔の映画まで、日本の溝口健二や小津安二郎の映画も日本では見る機会はありませんでしたが、パリで初めてみることができました。
映画館までの道で出会うさまざまなところ、例えば雰囲気のあるビストロ、新しいセレクトショップ、椅子の張替えをするお店、可愛い花屋さんなど、初めて通る道での偶然の発見と出会いにワクワクしたのを覚えています。こうして足で歩くことによって知り得ることは、誰かに連れて行ってもらって知ることに比べたらずっと大きく、「旅」の楽しさと言っていいでしょう。
だから私は永六輔さんの言う旅をいつも、パリでしていたことになります。実際、パリという街は歩くと何かしらの発見があると言っても過言ではなく、常に何かを気づかせてくれる不思議なところです。でも、これは誰かと一緒ではダメ。一人でいるからこそ感じることができるのです。だれかと一緒にいると、おしゃべりしたり相手を気遣ったりして歩くので、自分の神経を集中できませんから。
神経を集中させると、目に飛び込んでくるものがなんと多いことでしょう。先日もパリで友人宅の夕食によばれて訪ねるときに、歩いて行くことにしました。そうしたら多くの発見があり、楽しい散歩となりました。
セーヌ川に浮かぶ2つの島、シテ島とサン・ルイ島。滞在先がちょうどこの2つの島に近い右岸側のマレー地区で、ここから出発です。まず、目に入ったのがノスタルジックなショーウインドーのエピスリー(食品店)でした。オリーヴオイル、紅茶、香辛料のほか、ビスケットやカフェ・オ・レ・ボールなどもあって、なかなか素敵な品揃えです。でも入り口はしっかり閉まっていて、中に入れません。
その隣にあるのが「オ・メルヴェイユー」というおしゃれなパティスリーで、中で作っているアトリエの様子も外からガラス越しに全部見え、列を作ってお客が何人も並んでいます。メレンゲのお菓子の専門店でした。これはゼッタイに美味しそう、という直感。翌日、早速買いに行ったのでした。
ちょうどサン・ルイ島の真ん中を突っ切るかたちで最初はポン・マリー(マリー橋)を渡ります。渡り切ったところでふと、右手を見るとセーヌ河岸にできた影が何と情緒のあることでしょう。そしてその先にかかっているルイ・フィリップ橋がライトアップされて輝いています。
パリの夜景は本当に綺麗だなーなんて思いながら歩を進めていると、不動産屋が。リスやフクロウの真っ白なぬいぐるみや雪のかかった松の小枝がショーウインドーを飾っています。ファンタスティックな世界にふと立ち止まって、見入ってしまいました。
島の中央を走るただ一本の道、サン・ルイ・アン・リル通りのクリスマス・イルミネーションが通りに沿って高く、縦にまっすぐに飾られていて、これも又シンプルで美しいこと!
今度はトゥルネル橋を渡り左岸へ。ここから望むノートル・ダム大聖堂はいつも本当に素晴らしいのですが、今回も期待を裏切らず、暗闇の中に浮かび上がっています。そして橋のたもとにある鴨料理で有名なレストラン、トゥール・ダルジャンが明るくライティングされ上品に佇んでいます。
ここまでで出発から1km弱。この間、私は何回足を止め、感激したことでしょう。いつもは昼間通るところでも、夜はまた違った印象になります。パリは美しいと、再認識した小さな旅でした。
パリの町を歩いているとあっという間にメトロの2〜3駅ぐらいを歩いています。これは私だけでなく、友人たちも、また日本から来た人も「日本に比べて本当によく歩くわ、パリでは。」と言っています。パリのメトロは駅と駅の間隔が比較的短い(500m前後)ということもあると思いますが、歩いていると楽しいからというのが本音かもしれません。
すれ違う人を観察するのも興味深いし、ショーウインドーを見るのも本当に楽しいと思えるのがパリの街。東京だって決してパリより劣っているわけではありません。むしろ清潔さという点においては、東京は否、日本は世界に誇れるほど清潔感があり、これは私たち日本人が胸を張って誇ることのできる美点です。
そういう面から見るとパリは汚れているし(と言っても一概には言えないのですが、いわゆるパリの顔と言える中心地に近いところは綺麗ですが、観光地でないところは全く雰囲気が違います)、犬のフンはいたるところに落ちている(特に左岸のサンジェルマン地区は気をつけなければなりません)し、落書きも多く汚いのです。
清潔感を好む日本人、落書きに罪悪感を持たないフランス人なのでしょうか?落書きには2種類あって、鬱憤のはけ口に書いた殴り書きタイプともうひとつは自己表現の一つとして描いたエスプリやアート感覚に溢れたものがあります。
後者の落書きには「お主、やるな」と見る側が心のどこかで言って、描き手にエールを送っているのです。だから上手に描かれた落書きは昔から続いていて、今も街からなくならないのでしょう。美的であり丁寧に描かれた落書きなら、街の景観も損ねないから、温存され、街の一部になっていく。町を歩きながら、そんな壁を見るのはとても楽しいことです。清潔感を大事にするか、落書きの遊び心に拍手を送るか、国民性の違いがよく現れていると思います。
日用品の細々としたものを売る雑貨店のことをフランス語で「ドゥログリー droguerie」と言いますが、最近はスーパーマーケットにその座を奪われている感があり、 淋しい限りです。日常生活に必要なものが何でも置いてあり、お店のオーナーの好みがそのまま商品に表れるので、気に入ったお店では時間が経つのをついつい忘れてしまいます。
5区にあるドゥログリーは偶然、出会ったお店です。まずお店の外に置いてあったたくさんのカゴに目を奪われ、中に入ると、ある、ある、その日からでも使いたくなるような魅力的な商品ばかりではありませんか。オーブン用のアルザスの陶器の器、ちりとり、イタリア製のプラスティックの水差しとコップ、整理箱、、、。
ふと目線を上げると、えっ、天井が絵本のように描かれていて、魔法使いのおばあさんが乗るような箒がつる下がり、ジョウロもぶら下がっているのです! ここは毎日がファンタジーに溢れ、絵本の世界へと誘ってくれるのです。天井に色を塗るのならいっそのこと楽しく、メルヘンの世界にしましょうというオーナーの遊び心が全開しています。
先日、モンマルトルの地下鉄アベス駅に行った時のこと。アベス駅は丘のふもとの中腹あたりにあり、線路と出口に標高差があるため、通常は大きなエレベーターが動いています。その時は工事中だったため、仕方なく螺旋階段を使ったのですが、そこでびっくり。それまでのなんの変哲も無い白い壁が一変して、ファンタジーに溢れる壁画になっていたのです。空を飛ぶ幻想的なベガサス、ムーランルージュをバックにした鼓笛隊の少年たち、サクレクール寺院が描かれたモンマルトルの景色、壁面いっぱいに描かれた花畑など、全部で7種類の壁画でした。
7点の壁画はそれぞれタッチが異なっているので、7人のアーティストの手によるものでしょう。こういった発想が一体どこから来るのか、私はただただ感心するばかり。(日本でもこんなふうに夢とセンスのある人が、行政に携わってくれるといいなぁ。)描かれているテーマは、「ファンタジー」と「モンマルトル」です。抽象でも、現代アートでもなく、みんなが親しみの持てるほっとできるテーマと表現に仕上がっていて、たくさんの人が利用するメトロにふさわしく、大変素晴らしい空間だと思いました。
アベス駅は地下鉄12号線です。パリに行ったらぜひ行ってみてください。
パリで花が美しく植栽されていて、ホッとできる場所の一つにジャルダン( Jardin )と呼ばれる庭園があります。今回は特にお薦めの2つをご紹介しましょう。
まず、「リュクサンブール庭園」(リュクサンブール公園とも呼ばれています)ですが、ここはいつも人が多く訪れ、それぞれの人がそれぞれの楽しみ方でくつろいでいます。特に気候のいい時季は、花壇の前に椅子を置いて日光浴する人、本を読みふける人、友達同士おしゃべりをする人、池でレンタルの舟を操る子供たち、ロバに乗って得意げにライディングする子供たち、芝生に寝そべって語り合うカップル、テニスをする人、チェスをする人、アマチュア・コンサートなど、そこで目にする光景をあげたらきりがないほどで、どれもが幸せそのもの。ただ散歩していてそういうのを見るだけでも気持ちがリラックスしてきます。
私は西側の入り口の近くに住んでいたので、よく訪れました。といっても庭園で過ごす時間はなかなか取れないので、外出する際、その都度方向を変えて庭園を突っ切ることを実践していました。束の間の散歩であっても、季節の移ろいを感じたり、小さな発見があって、いつもの街の中の通りを歩くのとは違って気分が浮き立つのです。
ある夏の日、いつものように西門から入って庭園中央の花壇の花を見て、北側の門から出て郵便局に行こうとしていた時のこと、ふと目に止まった一枚のポスター。それを見ると近々、リュクサンブール庭園で開催される野外オペラ、ロッシーニの「セビリアの理髪師」が上演されることがわかりました。
友達を誘って観に行きましたが、日が落ちて夜風に吹かれながらの観劇は、劇場とはまた違う感動を得たのでした。それにしてもたった2日間であっという間に鉄骨を組んで舞台と客席を作って、しかもパブリックなスペースを使った公演が行われたのです。
こんなことに出会えるのも、リュクサンブール公園を突っ切って、散策した結果という他ありません。
もう一つ、お気に入りの庭園は「パレ・ロワイヤル庭園」です。「パレ・ロワイヤル」とは「王宮」という意味ですが、その名が示すようにルイ14世が子供時代を過ごしたところです。庭園を囲むように建物が建ち、回廊になっていて、ここについているランプ一つとってみても格調の高さが伺えます。
リュクサンブール庭園に比べるとぐっと狭い面積ですが、庭に植えられている樹木は整然と美しく、夏の間は直射日光を遮って木陰を作り、葉がすっかり落ちた冬にはパリのどんよりした曇り空とともに、パリ特有の冬の寂寥感が漂っていて雰囲気抜群のところです。
イメージがガラリと変わって開放的な夏になると庭園はとりわけ美しく、冬の間何もなかったところに花が植えられるのです。しかも花の高低、色合い、種類などが見事に計算されていて、柵の小さな扉を押して中に入ると、ベンチが置かれ、バラの花の傍で本を読んでいる人がいたりして、なかなか様になっている光景も見受けられます。
庭園の中心には大きく高く上がる噴水が勢いよく昇り、あたりの静けさを破って水しぶきの音が聞こえます。水は人の気持ちを落ち着かせるもの。夏でも冬でも絶えず美しい弧を描いている姿が、これまた「王宮」という名にふさわしいな、と思うのです。
パリに行ったら、是非訪れてみてください。期待を裏切らない素敵な場所ですよ!
パリに暮らした19年間、そして帰国してまもなく6年になろうとしています。帰国してからは年に2?3回フランスを訪れ、取材やコーディネートの仕事をしています。少し間を置いて(といっても半年ぐらい)パリに行くととても新鮮に感じたり、半年のうちにあっという間にネット社会が進んで変わっていたり、また全然変わっていないことも多くてホッとしたりで、変わるフランス、変わらないフランスの両面があって興味深く感じています。日本とフランス、どちらも魅力的な面とそうではない面がありますが、今回はパリの魅力的なことの一つ、展覧会についてご紹介しましょう。
東京でも数々の素晴らしい展覧会が常に開催されていて、決してパリに比べて引けをとりません。でも"何か"が違うのです。
まず会場ですが、ゆったりとしていて天井が高く、グランパレ(1900年のパリ万博のときに建造された鉄とガラスでできた丸屋根が特徴)のような歴史的建造物が使われたり、美術館の中で展覧会が開催されるなど、会場の選定には脱帽します!
そして展示の仕方です。絵画ならガラス付きのものは少なく、ほとんど至近距離でダイレクトに見ることができます。陳列品の前にロープを張って、はい、ここまでなどということはありません。それから写真撮影OKなのです! 日本とはだいぶ違いますね。撮影してもいいのはその作品が発表されてから50年以上経った、いわゆる著作権が切れたものに限られますが、美術館で見るものは大体50年以上前の作品ですから。
それでは今年の夏、私が訪れた展覧会を見てみましょう。パリは言わずと知れたモードの国。ファッションの魅力的な回顧展が2つありました。否、一つはまだ進行中です。一つは「バレンシアガ、黒の作品展」(Balenciaga, l'?uvre au noir)。バレンシアガは1950?1960年代にパリ・オートクチュール界で活躍したクチュリエ(オートクチュールのデザイナーをフランスでは敬意を込めてこのように言う)で、大胆なフォルムを追求し、気品のある服作りで地位を築きました。今回の展覧会では黒の服に焦点を当てていて、バレンシアガの服でこんなにも黒があったのかと驚き、まるで1980年代以降の黒のモードの先取りをしていたようだと感じました。
この展覧会では内容の素晴らしさはもとより、会場選びにも感心しました。場所はブールデル美術館で、普段は彫刻ばかりを展示している美術館です。常設の彫刻作品をそのまま生かして、バレンシアガのフォルムの服の美しさを追求した服を同じ空間に展示するという、極めて斬新な展示方法で相乗効果を生み出していました。
もう一つは「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展」(Christian Dior, Couturier de R?ve)です。メゾン設立70周年を記念した大回顧展で、ファッションの展覧会としては過去最大規模ということです。ブランドの核となる故クリスチャン・ディオールの幼少期の写真、資料や作品から、彼の死後ブランドを引き継いだ現在までの6人のデザイナーのオートクチュールの作品がズラリと展示されました。
ここは2つに建物が分かれていて、一つは先に紹介した展示室での展示です。もう一つはホールと呼ばれている天井がこの上なく高く、吹き抜けになっているところで、こちらでは天井までの高さを生かした大スペクタクルになっています。何段にもなって展示され、顔をあげて見ていても到底見切れるものではないのです。それと別のホールでは天井から光の洪水が使われ、展示されたソワレ(イヴニングドレス)が一層華やかに見える効果を演出していました。
会場となったのはルーヴル美術館に隣接するリヴォリ通りにあるパリ装飾芸術美術館です。(会期は2018年1月7日まで。火曜休館)
2つの展覧会をご紹介しましたが、どうですか、やっぱりパリってイメージづくりが巧いですね。
Parisの人気フラワーアーティストたちと今年も交流してまいりました。
KAORUKO Parisと連携の皆様と日仏トップフラワーアーティストどうし最先端のスタイル、花合わせで楽しみました。
KAORUKOフローリスト銀座でも、KAORUKO Paris同様のスタイリッシュなParis風花束をお届けします。
花束ならなんでもいいの時代は終わりました?
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